113回 「人」についての「経営」

★「空気(心象的環境)」づくり★

今回は、第3段階の課題についての話をしたいと思います。ここで述べたいのは「最大の経営資源」としての“人”を、どのように考えてどのようにすれば活かすことができるかということで。具体的には「企業文化(風土)」や「人をつくる」といったことです。

もし、これが可能になると、企業は斉合性のある活動を自律的に高い活力をもって動くようになります。平たく言えば『外部の顧客への貢献』を目的に、内部の仲間または外部の関係者と連携して「知識」と「活力」を効果的に活用して「自ら意思」でもって動き出すということです。目標となるのは、そのような組織と環境をいかに創るかということです。

ただ、ここで心しなければならないのは、多くの経営者においては自身の持つ価値観とは異なるだろうし、それは状況によって取らなければならないそのあり方を状況判断しなければならないということです。この第3段階は、好業績の中の企業のなかにあって一部の企業が不完全なかたちでやっと近づけているのが現状のようです。

どのように説明させてもらったらよいのか、心という微妙なものと仕組みという論理的なものが有機的にかかわるので容易く説明できないものです。なおかつ、それが地域や時代や状況によっても異なるのでなおさらです。

また、清水の次郎長なのですが。山岡鉄舟が清水の次郎長と会った時のことですが「おまえの子分で、お前さんのために、命を捨てる子分は何人いるかえ」と問いかけたところ、次郎長は「あっしのために命を捨てるような子分は一人もおりやせん。が、あっしは子分のためにいつでも命を捨てることができやす。」と答えます。

また別のときに「どんなつまらねえ野郎でも、人の前では決して叱言を言ったことはございやせん。」などの言葉もあります。慶応二年(1866年)47歳のときに、伊勢・荒神山の喧嘩で子分の法印の大五郎や弟分の吉良の仁吉が殺されると知ると大激怒して、480名をも動員して敵である穴太徳の元へ向かっています。海道一の大親分となれたのは「子分の為にいつでも命を捨てることができやす。」の迫力があってことでしょう。

GEのジャックウェルチは「われわれは失敗にも報酬を与えている。機能しない照明器具を作ったチーム全員にテレビセットを贈ったこともある。そうしないと、社員は新しい挑戦を避けるようになる。」と言うのです。

ドラッガーの言葉を引き合いに出します。「すでに組織は、組織の勧誘についてマーケティング(誘因)を行わなければならなくなっています。人を惹きつけ、引き止められなければならない。彼らを認め、報い、動機づけられなければならない。

彼らに仕え、満足させられなければならない。」と今日の企業のあり様を述べています。次郎長には「清水二十八人衆」という屈強な子分がいたとされています。想像するに普通でも一筋縄では行かないのが“人”であるので、それが世をすねた荒くれ者であればなおさらのことです。

これを「あっしのために死ぬ子分など一人もおらぬ。」と承知しながら、「だが、あっしは死ねやす。」となると。ましてや「どんなつまらねえ野郎でも、人の前では決して叱言を言ったことがございやせん。」と気配りされては、この人に身命を預けて屈強になるのは「水が低きに流れる」のと同じ道理です。慶応4年(1868年)戊辰戦争では逆賊として駿河湾に放置されていた幕府軍の遺体を、新政府軍の咎めがあるのも物ともせずに収容しこれを向島の砂浜に埋葬しています。

次郎長には、勇気をもって筋目を通す侠客としての美意識があります。筋目は、組織の個々の行動を一定方向へ統一させる基準を提供します。経営者(リーダー)の役割として重要なものとして「空気(心象的環境)」つまり組織文化(風土)をつくりだすことが求められます。

経営(マネジメント)とは、人が有する「知識」「活力」を最大限に醸成し活用することによって、最小のインプット(資源)でもって最大のアウトプット(成果)を実現させることです。そうであるのだから、人をして抵抗感なく自らそうであることが納得できるさらには心地良い「空気(心象的環境)」が求められます。

清水の次郎長は、この「空気(心象的環境)」を知ってか知らずしてか、つくりあげた達人であったとも言えそうです。この系譜の経営者としては、出光興産の創業者出光佐三さんや日本電産の永守重信さんや、経営者ではないけれど西郷隆盛翁があげられそうです。

ただ、この系譜の人たちは「日本人」の好む「甘え」の「空気(心象的環境)」づくりの達人であると一言添えなければなりませんが。

 

★過去に幸福だった人へ★

第3段階のあり方を簡潔に述べるについては、一筋縄では行きません。なぜなら、それは分かったで済むことではなく“実行”できなければならないことなので、その意味で起業家は高い使命感を持っていることと強い危機感を持っていることが求められます。それは、微妙で困難であるがために強く高い動機がなければ「効用」の最大化づくりなどできようはずがないからです。

故なのか、大病の体験やそれに類した経験また倒産もしくはその瀬戸際を経た経営者がその条件を持っておられるようです。「苦くつらい体験、経験」が、高いレベルの“覚醒”を起こさせパラダイム・チェンジ(価値観の展開)を起こさせるからです。

ここに逆転の「真理」があります。幸福な人は知り得ず不幸になるかも知れず、そうでなかった人は知り得て他の人をも幸福にさせることができかもしれません。真には幸福でなかったかもしれませんがそう思われている人は、この「真理」を知らなければならないのです。そうでなけば、ドラッガーの言う「組織の勧誘についてのマーケティング(誘因)」に失敗してあげく苦しむことになるからです。

この回の区切りに「マキャベリの言葉」を今後の対策のために上げます。

「君主足らんとするものは、種々の良き性質をすべて持ち合わせる必要はない。しかし、持ち合わせていると、人々に思わせることは必要である。」「君主は、悪しきものであることを学ぶべき(筆者追加悪しきでないことは、さおさら)であり、しかもそれを必要に応じて使ったり使わなかったりする技術も、会得すべきなのである。」次回もまた、第3段階の課題を考えて行きます。