112回 「未来」と「経営」

★初手の「見極め」★

私たちが起業しその事業を軌道に乗せていく方法は、サントリーの鳥井信治郎さんの「やって、みなはれ。」や日本電産の永守さんの言う「やり始める。やり続ける。やり通す。」より術はないのですが。しかし、最初の第一歩の段階を勘違いすると、その後の「成果」や「生産性」においては大きな差が生じます。カギになるのは「マーケティング」で「顧客の欲求」の「見極め」です。

この「見極め」は、起業家が行わなければならない根幹の「仕事」で。「見極め」が的確であると、あれよあれよという間の大成功もあって。これは誰もが待ち望む「棚ぼた」ですが、その後に必要な舵取り(マネジメント)に失敗しますと「バブル」はしばらくしてはじけてしまいます。久々にドラッガーの言葉をあげます「未来」についてです。このように言っています「われわれは未来についてふたつのことしか知らない。

ひとつは、未来は知りえない。もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違うということである」。続けて「それでも未来を知る方法は、ふたつある。一つは、自分で創ることである。もう一つは、すでに起こったことの帰結を見ることである」。「見極め」で難しいのは「未来は知りえない。未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違うということ」です。

けれども「コンピュータ」や「コピー機」や「スマホ」あるいは「コンビニ」(これはアメリカからの導入)「チキンラーメン」などのように、世に出てはじめて認知されて誰もが当たり前のように活用するものは「自身がつくった未来」でごく一般的な出来事でもあります。

また「すでに起こったことの帰結を見ること。」については、ほとんどの起業家の成功は程度の差こそあれほとんどがその範疇に入りそうです。ここで、強く言いたいのは起業の成功は、過去の思考の延長線上とは異質であるということです。人力車の延長線上には自動車はなく、また竈(かまど)の延長線上には電気釜はないということです。

「未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違う」ものですが、柔軟な考えの若者や一部の感性のよい大人は「時代の匂い」を嗅ぎ分けてそれを創造または先駆けることができるでしょう。感性が鈍い大人の“正しさ”では「匂い」を判別することができません。今日の「東芝」などの不祥事は、感性が鈍く不誠実な大人の舵取りが沈殿されて良識を狂わせ本来や未来を予測できず起こったものなのでしょう。

重要な意思決定を、株主を目くらましにするために不正な会計処理で利益を出すことに代える感性の鈍さは、ここに極まった感があります。「見極め」について話を戻しますが、一般に「今日予測するものとも違う“未来”に受け入れられる“効用”づくり」を行うにはリスクを伴う決断が求められ、そこではいつも柔軟な感性と勇気が要求されます。その起業の始めにおいては、松下幸之助さんも本田宗一郎さんも稲盛さんも孫さんも柳井さんその他多くの経営者たちは感性のよい若者でした。

永遠の青年と呼ばれる人もいますが、一般的に歳を経ると未来を嗅ぎ分ける感度が鈍くなり時代が欲する「効用」をつくれなくなります。経営者はどうすればよいのか、それは誰もが発言しやすく活躍しやすい環境をつくりそして支援を行うこと、これがあるべき「基本的な仕事」です。サントリーの創始者の鳥井信治郎さんの「やって、みなはれ。」や京セラの稲盛さんの創始した「アメーバ経営」などがその事例です。今日のようなグローバルでかつ変化が質的にも激変する環境にあっては、今が旬(しゅん)などまたたく間にすぐに陳腐化してしまいます。

しかし、ここで考えていただきたいのは“変化”はいつも“新たな機会”を伴っているということで、感性の豊かで執念があれば、今はよくなくとも、いずれの時にか栄光は必ず訪れるというものです。また逆もしかりで、今よくても明日のことはどうなるか分かりません。

多くの経営者が現在しか見ずまた己の才覚にのみ頼るなかにあっては、それとは違った感性や知恵を持つなら、それだけでもアドバンテージ(優位)で先んじることができるというものです。

 

★近代経営の3段階★

「見極め」が正しいかどうかは事の始まりで、ここがおかしいとその後の「努力」は「経験」としての意義は持てても全ては徒労に終わります。全ては「見極めたもの」が顧客に受け入れられるかどうかの、この一点に集約されます。ただ、現れてはじめてそれと分かるというそのものなので、過去の経験や知識が威力を発揮しないかしにくいのがここにある状況です。

それ故に時代を先駆ける大きな成果の誕生は、安定した豊かな環境からはもはや生まれることなどあり得ようはずはありません。独創性がある大きな成果は、スティーブジョブズの言う「ハングリーであれ、愚か者であれ」の中から「わがままで、ひつこく、執念深い」それでいて「愛情があり」「信念があり」「実行力のある」人から生まれます。

このように言ってしますとそんなの無理だとなりますが、なそうとするならば「顧客のことを思う重要性」を肝に銘じ、勇気を持ってハチャメチャに「やり始める。やり続ける。やり通す。」より術はないとあらためて繰り返します。ここで逆説として提言しますが、東芝の経営者のように満ち足りた人や成熟しきった組織では、今まではたしかに通用したこともあったのですが、これから先の社会では、よほどがない限りもはや「機会」はありえません。

「機会」を持ち実現させるのは、閃きや悟った強くあろうとする貧しく劣等感の強い「ハングリーである、愚である人」であって、覚醒すれば今のよろしくない状況こそが未知を開かせる起爆剤になります。ここで「機会」を「現実」にする3条件を披瀝します。その一、時代や顧客が待ち望んでいることをやる。何故なら、何度も言わさせていただいているように、お金を支払うのはお客さんだからです。

事業とは、外部つまり社会とかかわることで、うまくかかわれることによってはじめて私が「儲かる」ことになります。その二、他の人が出来ないことを、人よりできるもしくは私しか出来ない(今できていなければ、出来るまでやる手があります)ことをやる。

誰もできないことをやるか、私が一番うまくやることでなくしてお呼びがかかることなく、それであってはじめて私が「儲かる」ことになります。その三、一定以上の収益が期待できる市場があるもしくは見込まれることが必要条件です。

無人の荒野で大声を出しても、それに対して反応する人などはいません。「それ行うことが世のためになる。」「私がそれをやるのが最も適切である。」「誰もしていないまたは出来ていない。」これを行うのが「ミッション(使命)」であり、そしてこの「ミッションに共感を持つ人材を集めて、育成して仲間とする」と、それは“私たち”の「事業」となります。やや結論めくのですが、これが成せれば強い事業を行うことができます。

観念論として先走っていますが、ここからはもう少し整理して組織としてどのように具体的に形づくるかを3段階にして考えてみたいと思います。第一段階において最も重要なのは、未来の社会が求める“効用”についての「見極め」で知りがたい未来を嗅ぎ分けての初手から創造かもしくは模倣してから変化を行うことです。

変化については、例えば今は売れなくなった「七輪(土製のこんろ)」でも、オシャレにすれば割烹やお食事処での「売り」の一つにもなります。また、コンビニエンスストアで「おでん」を売るなどです。「見極め」は事業のもっとも成果を左右するもので、ここをクリアーしていないものにはその後はありません。

逆に、ここが際立っているとどんな不手際なマネジメントを行っても、それがもたらす“効用”がある限り長く誰もが受け入れ続けます。砂漠では、泥水でも「命の水」であるがために誰もが求めるように。第二段階は、仕組みを構築すること、システム、プロセス、規範、手続き、組織化、動機付けつまりマネジメントが必要で、これなくして組織としての企業は円滑に機能しません。

「ホンダ」を例に挙げて、考えてみます。「ホンダ」はご存じのように本田宗一郎という稀有な技術者がいて際立った“効用”づくりを可能にして立ち上がった企業です。しかし、これだけで今のような企業に成長したかというと、ご存じの人はご存じのように藤沢武夫という補佐役がいてはじめて成し得たことです。「見極め」「技術(ノウハウ)」が両輪がかみ合っていると、仕組みが構築されていずとも、世に出せばこぞって待ち望んでいるものだけに売れに売れまくりました。

しかし、本田さんのように仕組みができないのであれば売掛金すら回収できず資金的には全くの窮屈であるという状況も生まれました。ここで登場したのが藤沢武夫さんで、前金と手形払いで資金をかき集め資本金6千万円の時に設備投資15億円の大冒険なども行っています。

この設備投資は後のホンダの大躍進に大きく貢献することになるのですが、ところが好事魔多し、昭和29年には模倣製品の氾濫、ヒット商品や新商品の思わぬトラブルで倒産の瀬戸際まで追い詰めらています。そんな中でやんやかやの必死のやりくりで、なんとか危機を脱しました。そこからの反省があり、仕組みづくり近代経営への転換が始まります。

優良企業の有価証券報告書を徹底的に分析し、増産を一切禁止してムダのありかを探ったり、ドイツを訪れ一流メーカーの経営を学んだり、それらをもとに、第一線の担当者をも巻き込みながら創意工夫し学びながら近代経営はこうあるべきだという形を創り上げて行きました。

ここで一言ですが、この過程で非常に重要なことがあります。専門家に任しきらないことで、現場のことを知っている担当者が中心になって改善、改革を自らの創意で行うこと、これがマネジメント要諦です。

 

1.現場で考えることで、もっとも適切に現場の実情に沿ったものとなる。

2.自分で考えたものであれば、努力のし甲斐がある。

3.一から経験することで学習がすすみ、現場にスキル、ノウハウ、やる気、自信、ネットワーク、信頼といった無形の資源が生れ蓄積されます。

4.部門を超えて取り組むことで、社内ネットワークが構築されます。

 

教科書的にあらわすと、顧客視点の経営(マーケティング)、管理会計、生産管理の徹底、合理的な人事評価制度の確立、そして“効用づくり”に沿った組織づくりおよび改革などです。

合理的な人事評価制度の確立について、誤解があるので追加して述べます。合理的な人事評価制度というと″成果主義”が取り沙汰されますが、仕込みなければ自己免疫不全のように自身の内部を破壊し始めます。

これをどうするかですが、松下幸之助さんのように「私の会社は製品をつくる前に人をつくっています。」GEのジャック・ウェルチのようにマネジメントの最終目標は“文化”の構築であるとなるのですが。これが第3段階の課題なのですが、次回にじっくりと思索いたします。