110回 マーケティングの考察

★市場地図について★

「特許技術ではないけれど、どこにもない特別な技術なので何とか有効に活かしてもらいたいのですが。」という相談を受けました。どこにもない技術は「強み」の源泉なので、なんとかしてあげたいと思うのですが「得意先」が見えていないだけになかなか厄介なのです。経営者も、ターゲットの見当つかなくて苦労しているということでした。

技術は顧客の「効用」を活かせてはじめて「活きた技術」となります。それが適わないのでは「仇花」となってします可能性は否めません。話しが変わり、つい最近のことなのですが、地図検索にミスって訪問すべき会社とは全く違ったところに出て来てしまいました。断っておかなければならないのですが、私の携帯は“ガラ携”なのです。そこであわててタクシーをつかまえたのです。

ところが、なんとそのタクシーには「ナビ」が搭載されていないのです。危ぶみながら目的地の住所とビルを告げたのですが、乗車歴50年をほこる運転手さんは目的地になんなくスイスイと案内してくれました。

運転手さんの話によると、お客様のご要望通りの目的地に到達するには4年目になってなんとか思い通りに着くようになったとのことでした。ここで、この話をさせていただいたのは企業の存立基盤を保証する「市場地図」というものを考えてみたかったからです。先に述べた「特別な技術」を売り込みたいというのなら、まずは市場(顧客)が「顕在、潜在を問わず求めているさらに渇望している効用」の存在とその所在が明確でなければなりません。そして、その「ニーズのあり処」が分かる地図や土地勘を持っていなければ目的地への到達は適いません。

いつもあるのですが、事業が成り立つのは「最初に、顧客の欲求ありき」で、何故なら「対価を支払うのは、顧客なるが故なり」となり。「製造業」だけでなく「卸売業」「小売業」さらに「サービス業」も含め同じで、存立できるのは「顧客要求に応える」前提を満たすが故です。すべてにおいて顧客が欲する「効用(ニーズ)」を満たすが故に成り立つのであって、このことは企業を存立させる「必須の要件」です。

ところが、ごく一般に事業を行う目的はと問いかけられたら「儲けることだ。」となり少し上品になると「利益を上げることだ。」となります。ここで少し踏み込んで「どのように儲けるのですか。」と聞くと、創業を目指している若者たちで時折あるのですが「それを、今から考えるところです。」となったりします。さきほどの話に戻りますが、企業が「商品やサービス」を買ってもらうために必要なことは、タクシーの運転手さんでなくとも私の街(市場)の地図を熟知しなければならないのです。

日本の大阪の地図を熟知しなければならないので、ニューヨークに土地勘があっても大阪での目的地に到達することはできません。「市場地図」は、目的地に到達するために持っていなければならない基本的な戦略アイテムです。肝心なことは、それは私たちのターゲットである「お客さんは誰なのか」「何を欲し、また渇望しているか」さらに「どこに、どれだけいるのか」「何によって情報を得ているか」「どこでまたはどんな手段で商品・サービスを手に入れているか」ということです。もちろん、これらを知るのは並大抵のことではないのですが、この「市場地図」が正しく描けなければ、とうぜんのこととして顧客の期待に応えて購入へと導くことさらに継続して実現されることは適わないでしょう。これを知ろうとすることまた絶えず心して見直し確認すことは、経営者のみだけではなく企業全員が心してなさなければならない「存続」のための核心でなる基本姿勢です。「市場地図」の稚拙さは、売り上げの低減として連動して現れます。

まず、この地図をつくるについては自社が存立している立ち位置(事業領域)が戦略的に適切に「焦点化」されていなければなりません。GEの「No.1・No.2戦略」のように、強みのない事業領域で勝負しても経営資源が分散されるだけで「No.1・No.2の成果」は得られず、やがては限界弱小企業となり見捨てられてしまいます。何故か「100金のダイソー」の商品を思い浮かべるまでもなく、価格が安くとも「No.1・No.2」でないまた「魅力のない商品」は見向きもされることがないからです。

私たちが勝てる領域のお客様に、そのお客様が「欲しまた渇望している効用」を地図が示す到達点に“一番”で到達することが企業活動の目標となります。そんな地図は、とうぜんとして顧客情報だけでなくて経営資源たる「ヒト、モノ、カネ、知識」に関しても必要とされます。ただし「経営資源の市場地図」については「焦点化」も必要ですが、機会を求めて「空間領域」を拡げて情報収集することが求められます。

 

★いろいろな市場について★

市場地図」はどのように作成するのか、たまたま行った企業さんで聞いた話が印象的だったのですが、名前は出せないのですが、ある先端機器を導入して業績を伸ばしている企業さんがあって、その噂をどこで聞いたのか一部上場のその機器の部品をつくっているメーカーから連絡があったそうです。数日後に、早速10数人が来て根掘り葉掘りと詳細にわたって調べて行ったのですが、なんとその中の一人が“代表取締役”だったそうです。

そして、そんなに月日も経たない頃に、その某メーカーからその先端機械が販売されたという情報が入り、そして数年して今ではトップシェアを獲得するに至ったそうです。市場地図は、誰がつくり活用しなければならないのかを考えてみます。もちろん、全社で感度よくアンテナを張り社内でその見聞した情報をデータ・ベース化し共有化しコミュケーションするのがもちろん良いのに決まっていますが。

けれど実際には、強い使命感と感度を持ち意思決定できる当事者でなければ「市場地図」にもとづいて実行し成果物を得ることはないでしょう。日清食品の創業者の安藤百福さんは、言わずと知れた「インスタントラーメン」の開発者ですが、同社の大ヒット商品である「カップヌードル」も同氏が自ら開発しています。これはアメリカに販路を拡大しようとロサンゼルスに行った時に、たまたま現地バイヤーがチキンラーメンを砕いて紙コップに入れ熱湯を注いで食べているのを見たことがヒントになって開発されたものです。

もちろん、その開発過程には並々ならぬ工夫と販路開拓の苦労もあってのことですが、経営者自身の強い意志があってはじめてなされることです。ここで、一つ疑問が出ます。経営者が全ての「意思決定」と「責任」とさらに「商品開発」までしなければならないのかということです。「最終意思決定」と「最終責任」という経営者の責務は、他人に委ねることなどはできないのですが「商品開発」に関してはどうなのでしょうか。

「商品開発」の最終決断はもちろん経営者が行わなければならないものですが「アイディア出し」からはじめて「開発作業」を行うについてはどうなのでしょうか。そのあり方を考えてみると、それは「市場地図」つまり顧客の欲求を最も熟知する者が任にあたらなければ成果は得にくいと言えます。

今日のように変化が激しくその嗜好が多様化する時代では、なおさらでいくら使命感が強くても土地勘がなければ成果などは望めません。タマノイ酢の最大のヒット商品の一つに「はちみつ黒酢ダイエット」がありますが、これは入社3年目の社員が開発したものです。

いつもそうなのですが、市場地図に詳しく顧客に共感できる者かまたそのグループが「商品開発」を担当するのが基本的なあり方だと言えます。経営者の「あるべきかたち」は、社内のそのような人材を抜擢して「やる気」を持たせて権限委譲して支援するのがその「仕事」です。ところで、社員の平均報酬、収益率ダントツの「キーエンス」と言う会社をご存じのことと思いますが、ファクトリー・オートメーション用の高付加価値製品を製造・販売しているBtoBの会社です。

この会社の特色は、ファブレス経営(製造を外部の会社へと委託)なので製造や組み立て工場を自前で持たず、その企業活動は「製品開発」と「営業」に特化して事業展開を行っています。この企業の好業績は、どこから来ているのでしょうか。これを、市場地図ということから見て行こうと思います。この企業の大きな特徴は、他の企業が追随できない「No.1」を構築するために機能化した経営を行っていることで、基本である「マーケティング」と「イノベーション」を熟知しまた焦点化しやすい「市場地図」が活かせる事業領域(ドメイン)に特化させて事業展開していることです。

「キーエンス」の市場は、競合は限定されているものの高付加価値であることが条件であるため「効用」およびその基礎となる「技術」については容赦なく“ハイレベル”が求められそれなくしては成り立ちません。しかも、顧客の現場担当ですら「真の課題」が分からないさらに「技術」に至ってほとんど知っていないのといった状況にあります。だから「営業」は製造現場に入り込んで、顧客に代わっての問題点の抽出とその課題の解決のための分かりやすい提案ができなければなりません。

「商品開発」は、日々もたらされる「営業」からの要求とさらに先取りできる「技術開発」を実現できなければなりません。「市場地図(顧客要求)」をもとに先行させて、確実に「価値提供」できる商品を常につくり、この商品を成功した販売方法をもとにロールプレイング(役割演技)で訓練された「営業」でもってが販売しようとするのが、「キーエンス」のスタンスです。

ここまで述べて行くと、多くの人は「それは、そのような経営が成り立つような社員がいるから言えることだ。」となるでしょう。実は、それが創業者である滝崎武光氏が力点を置いた経営の「核」です。この疑問を感じていただければ、松下幸之助さんの言う「経営のコツ」に近くなったこととなります。「キーエンス」の「経営のコツ」は、ダントツの高報酬と今まで蓄積して来た「役立つ人材」獲得のノウハウを蓄積しフルに発揮していることです。<ここでの「役立つ人材」とは「優秀な人材」の意味と異なります。>

「キーエンス」では、他の企業よりも人材に関する感覚はするどいようで、どのようにすれば「人材市場」から「役立つ人材」を探し出すかの「市場地図」があるようです。

もちろん、成果をあげるためのマネジメントは、ムダを排除した“機能経営”に徹してのことですが。ちなみに新入社員面接では、ビデオ録画を撮っているのだそうです。現在活躍している社員の面接時の応対を見て、新入社員の採用の参考にするのだそうです。