105回 始まりは「ミッション」

★「ミッション」のあり様★
上位20%のA評価の社員には高額の報酬と特別な優遇がなされて、下位の10%の社員には解雇の宣告が待っている。
A評価の社員には、特別ボーナスはとうぜんとして夫婦同伴での豪華クルージングなども用意されている。これが「GE」というアメリカ企業の「処遇のあり方」です。

ここで「やはり、アメリカの本場の成果主義はすごいなぁ。」と言う声が聞こえてきそうなのですが、少し、その中身についての吟味が必要だと思うのです。「成果主義」という誤解を招きかねない言葉をそのまま使うとするならば、ことGEについての「成果主義」のやり様は「業績」評価に加うるに「価値観の共有」評価もその視野に入っています。

以前にも、述べさせてもらったのですが「GE」の社員評価の重要要素に「価値観」つまり『行動規範(バリュー)』があり、
トップである「A評価」を受けるには「業績」が良いというだけではダメで『行動規範(バリュー)』の実践度とさらに「ポテンシャル(潜在力)」
も加味されて決められます。

そこで「行動規範(バリュー)」という評価の効力について考えてみます。ただそれを行うについては、その前提となる最も根源である「ミッション
(使命)」つまり「私たちは何であり。何のために存在するのか。」を明らかにすることが必須であり「まわり道」を行います。

「マネジメント(経営)」の開祖であるドラッガーは「行動するにはミッション(使命)がなければならない。まず考えるべきものがミッションで
あり、何のための組織であり、マネジメントかである。」そして「ここが欠落していたのでは、いかに仕事ができても意味はない。むしろ社会にと
って危うい存在になり、『本人にとっても危ういものとなる。』」と強烈に「ミッション(使命)」の意義を訴えています。

GEの前々会長であったジャック・ウェルチが1981年から1995年の間に表明したのが「世界で最も競争力のある企業になる。すべての市場でナンバ
ー1かナンバー2になる。」でした。ちなみに松下幸之助さんが松下電器で掲げたミッションは「産業人の使命
は貧乏の克服である。物資の生産に次ぐ生産をもって、富を増大し。水道の水のごとく、物資を無尽蔵たらしめ、無代に等しい価格で提供する。そ
れによって、人生に幸福をもたらし、この世に楽土を建設する。」です。さらに京セラの稲盛さんは経営理念とした「全従業員の“物心”両面の幸
福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。」を掲げています。

3つのミッション(使命)を見ると、それぞれ趣がずいぶん違っていることに気付かされます。
松下さんの示したミッションは社員に「感動」を与え、一方ジャック・ウェルチが示し即実践したミッションは「衝撃」を与えました。
稲盛さんは、自身の苦い経験を通して熟成させたものです。ミッション(使命)はトップ・マネジメントが一人で独占してつくり上げなければならない「専権事項」であり「責任」です。

「ミッション(使命)」は、経営者のつきつめた「思い」「考え方」の末に創造されえるもので、それらがない模倣では「効験」はありません。

「ミッション」について、ジャック・ウェルチは「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか。」の解答を与えるもので「収益を上
げるための方向性を明確に示しつつ、社員に自分たちは何か大きな重要なことの一部なのだという気持ちにさせてくれる。」ものだとしています。

松下幸之助さんは「貧を除き富をつくるわれわれの仕事は、人生至高の尊き聖業と言えるのではないか。」とし「自己にとらわれた経営、単なる商
道としての経営の殻を破らねばならない使命を自覚すべきだった。」としています。

稲盛さんは、真剣に考え続けて「会社経営とは、将来にわたって社員やその家族の生活を守り、みんなの幸福を目指していくことでなければならな
い。」と気づき、その上で「長期的に発展していくためには、社会の発展に貢献するという、社会の一員としての責任も果たす必要がある。」と考
えたと言っているのです。

ここで核心として付け足しますが、
それは、これらの一見相違しているように見える「ミッション」なのですが「顧客への貢献」と「勝つこと」と「利益の獲得」は一体なので、とら
なければならない活動については同一なのです。それらは「人」の活動を通して実現します。

それを可能にするための、共通する必須の3要件があります。
3要件とは「社員の参画」「顧客の満足・感動」そして2要件の成立を通して実現される「利益の獲得」となります。
先に結論めいて言うならば「効用」のある「ミッション」はどこから入っても「行動規範(バリュー)」は、同じ内容に至ることです。

ここで事実として述べますが、大きな成果を実現させることのできた企業においては独自の活動力の源泉となる「ミッション」が掲げられます。
ところが、多くの企業ではその本来的な威力が認識されず、たとえ掲げられていたとしても創造性を有さない「お飾り」でしかありません。

「私たちは何のために、存在するのか。」「私の存在理由は、何なのか。」そのことに答えを与えるのが、経営者の「役割」であり、その「役割」を
果たすことが出来れば「力強い武器」を手に入れることができます。

★「バリュ」ーと「実践」★
少し長めに「ミッション」について語りましたが「バリュー(行動規範)」「価値観」の拠って立つ基盤が「ミッション」であるからです。
「ミッション」は企業の「存続」と「成長」を補償し実現させる源泉です。この独自性もあり普遍性をも持つ「ミッション」ですが、具体的に一貫し
て実行して成果に導かれなければその威力は発揮されません。
その役割を持つのが、何をどのように考え一貫して実行するのかが具体的に示される「行動規範(バリュー)」です。
「ミッションの精神」と「実行するための規範」は「成果」を実現させるための不可分の「経営の連続機能」です。

さてここで少し考えていただきたいのですが、「ミッション」は経営者の「専権事項」であり「責任」なのですが「バリュー(行動規範)」はどうなのか。京セラの「バリュー(行動規範)」は「京セラフィロソフィ」として全社員に提示されているのですが、これは稲盛さんが、経営していく中でさまざまな困難に遭遇し自問自答する中から生まれてきたものだとしています。その規範の拠り所は「人間として何が正しいのか」「人間は何のために生きるのか」という”普遍性”であるとしています。

松下幸之助さんは「衆知を集めた全員経営、これは私が終始一貫して心がけ、実行してきたことである。全員の知恵が生かされれば生かされるほど、
その会社は発展するといえる。」また「“衆知を集める”それなしでは真の成功はあり得ないだろう。」としています。

「バリュー(行動規範)」はだれがつくるのかに戻りますが、稲盛さんは「普遍性」を松下さんは「衆知」を前面に出しています。

では、アメリカではどうなのか、またGEのジャックウェルチを引き合いに出しますが、ジャックウェルチはこのように言っています「バリュー(行動規範)に関しては全社員が発言の機会を持つべきだ。」「多くの人が参加すればするほど、洞察力が高まり、アイディアが増える。」「そして最も需要な点だが、その作業の終わるころには多くの人から広く賛同をかち得ることができる。」と。何となく見えてくるものがあります。
「バリュー(行動規範)」は、全社員が納得して前向きに実行がなされてはじめて効果を発揮するものなので、

1.誰もが納得できる「普遍性」を基盤とする。
2.より良いものであるために、偏りなく「衆知」が結集させる。
3.全ての人が参画し、充分に検討されることで「賛同」が得られる。

「ワタミ」の場合を見てみます。
ミッションは、「地球上で一番たくさんの“ありがとう”を集めるグループになろう」。そして「行動規範(バリュー)」(抜粋)は、
「一、勝つまで戦え、限界からあと一歩進め結果がすべてである。」「一、地球上で一番たくさんのありがとうを集めるために戦う。」
とあります。
これについては、自由に考えていただければと思います。

5つ星ホテルの「リッツ・カールトン」のミッションは、
「お客様への心のこもったおもてなしと快適さを提供することをもっとも
大切な使命とこころえています。私たちは、お客様に心あたたまる、くつ
ろいだそして洗練された雰囲気を常にお楽しみいただくために最高のパー
ソナル・サービスと施設を提供することをお約束します。リッツ・カール
トンでお客様が経験されるもの、それは感覚を満たすここちよさ、満ち足
りた幸福感そしてお客様が言葉にされない願望やニーズをも先読みしてお
こたえするサービスの心です。」

サービス・バリューズ(抜粋)は、
1.私は、強い人間関係を築き、生涯のリッツ・カールトン・ゲストを獲
得します。
2.私は、お客様の願望やニーズには、言葉にされるものも、されないも
のも、常におこたえします。
3.私には、ユニークな、思い出に残る、パーソナルな経験をお客様にも
たらすため、エンパワーメント(拡張権限)が与えられています。

リッツ・カールトンでは、パート、アルバイトにかかわらず最初の丸2日
間「クレド(信条)の思想、哲学」の研修が行われます。
ディズニーランドも、リッツ・カールトンの研修と同様に「価値観」に関
する研修が、90%のアルバイトおよび正社員を対象に始められます。

GEの「価値観」とは
「明瞭・簡潔、現実的で顧客本位のビジョンを設定し明快に伝える」「誠
実な態度で、目標を高く設定」「官僚主義のもたらす無意味さを敵視する」
「権限を部下に委譲し、どこからでもアイディアを受け入れる」「変化を
チャンスと考える」などです。
その「価値観の目標」」は、他人の手柄を奪ってでも達成される「短期業
績」を拒否するもので、現在の成果だけでなく未来の成果をも実現させて
好業績を維持しようとする実利的なものです。

ここで結びとして、重要な要諦を2つ付け加えます。
「『バリュー(行動規範)』のことはなんとなく分かった、そうしたら実
行についてはどうするのか。」「実際に『バリュー(行動規範)』を実行
させるためのサポートをどのように行うのか」の2つです。

一つ目の「『バリュー(行動規範)』のことはなんとなく分かった、そう
したら実行についてはどうするのか。」から解説します。
実行する場所は現場で、実行するのは現場のスタッフです。
リッツ・カールトンでは、実行のための「マニュアル」は現場のスタッフ
が現場の経験事例を通して作成されます。
どのセクションにおいても朝15分のミーティングが実施されます。
この際に『バリュー(行動規範)』の一項目を、自身や他のスタッフにか
かわらず具体的に良い実践事例を取り上げて発表されます。
これらことが、文章化されて「マニュアル」となります。

もう一つ「実行させるための『サポート』」については、ジャック・ウェ
ルチの言葉を少し変形しますが引用します。
「短期の好業績を上げていても、バリューを実践しないマネジャーの解雇
を発表するたびに、社員はますますバリューに沿った行動をすようになっ
た。それでバリューを尊重するようになった。そして社員の満足度が高ま
り、それと同時に会社の財務状況も改善されていった。」
「バリューがなんらかの意味を持つには、それを実践する人には報酬を与
え、しない人には「罰」を与えることが必要だ。」と述べています。
これが一番最初に紹介した「処遇のあり方」です。

ただ日本においては、ややこれに「日本的な心情」と「現状」が加わって
変形されていますが、その精神には異なるものではありません。