104回  すべて「経営者」次第

★「挫折」は始まり★
ここのところ、ずっと気になっていることがあります。それは、余りにも理想論を語りすぎているなあということです。
しかし、言えることは「高みを目指さなければ」また「あるべき考え方を持たなければ」高い成果を実現させることができないということです。
さらに付け加えるなら、どんなことであれ1番以外には「存続」できる機会が少なくなってきていることです。

この「高み」と「あるべき」の2つのことを押さえることで、もちろん紆余曲折はありますが日本電産の永守さんの言うところの「やり始める。やり続ける。やり抜く。」ができれば限りなく「成果」に至りえるでしょう。

経営者の方に時折聞くのは「倒産の夢」を見るということで、京セラの稲盛さんもどこかでそのように話されているのを聞いた記憶があります。
いつも思うのですが、経営者の方の宿命は「成功」するより術がないということで、される「実行」はここを外しては無意味です。
ここで説明させいただくのは、ある方たちにとっては意外であって、一方の方たちには意を強くしていただけると思います、

創業者の3年後の生存率は、10%にも満たないと言われています。「知恵至らず」「時に利あらず」ということもありますが「知識」がないた
めと言うのが真実なのでしょうか。ただ、ここで言う「知識」は本を読んだから、大学で学んだら分かるといっ
たものではなく「挫折」したことがあるからこそはじめて理解できるといった類のもので、前回に説明させていただいたような「経営資源」であり「強み」の源泉である「知識(知恵)」です。

経営の「エッセンス」を知りたいということで優良企業の社史を読むのですが、そこで綴られているのは当たり前のことですが「生身の人間」がいろんな「思い」をもって展開される格闘の様です。
崩壊の瀬戸際での何気ない行動や神にも祈る気持ちで行った捨て身の行動が「吉」と出て、潮目が変わったというエピソードもたくさん語られています。

松下幸之助さんは「経営の神様」と称されているのですが、松下さんの「知識」は、困難と苦境のなかで「血の小便」が出るまで「素直」に考え抜かれた独創のもので近代マネジメントを先駆けるものとさえ言えます。
その松下さんの「知識」の特筆すべきことは、最大の経営の資源であり『知識』の源泉たる『人』をつくることと、その『人』の活力を活性させる「価値観(水道哲学)」の意味を真に理解されたことだと見受けられます。

企業の存亡を握る「絶対存在」は「経営者」です。
よい従業員が「いない」「育たない」のは「経営者」の責任で、短期は別として趨勢として業績が悪いのも「経営者」の責任です。
こう言ってしまえば身も蓋もないのですが、時折お会いする「知識力(知恵、胆力)」のある経営者の業績には目を見張るものがあります。
そう言う意味からいうと「ニッサン」をV字回復させた「カルロス・ゴーンさん」の年収が10億3500万円であるのも納得させられます。

経営者の基本とする役割は「価値観を浸透させる」「人を育てる」「環境を整えること」「決断(意思決定)する」の4つとなるでしょう。

ソニーの盛田昭夫さんが「ウォークマン」を”創ろう”としたとき、ほとんどの社員・役員が異を唱えました。
何故か少し解釈を加えますが、技術集団であるソニーの社員・役員の「価値観」は「先端の技術」だったからでしょう。

経営者が持たなければならない「価値観」は「顧客(効用)の創造」つまり「マーケティング」であり、「先端技術」は「満たされざる『効用』」を適えるための核心であるものの一要素だからです。「ウォークマン」には画期的な技術開発などはなく、無いどころか録音装置さえ取り外すのだから後退だとさえ見えそうです。

トランジスタ・ラジオの開発時には「小型でどこにでも持ち運べるラジオ」という『効用』のために「トランジスタ技術」の開発を行いました。
「最先端のトランジスタ技術」は必須の要素であるとはいえ「マーケティング」を実現させるための一要素であります。されど、ソニーが強力な「強み」を形成させるための要素ではありますが。

盛田さんは経営者として「マーケティング」の「意思決定」を行いました。
「夏休み前の発売で、価格は33周年にちなんで3万3千円ででいこうじゃないか」ということになりました。後に「アップル」が「iPod」を開発するのですが、本来ソニーが開発して大ヒットさせ得るものだったはずで、経営者の「意思決定」が何故なかったのか、ここに「経営者」の存在の重要性をつくづく感じられるのです。

サントリーは何故「ビール」に参入したのか。
佐治敬三さんは「洋酒が絶好調で作れば何ぼでも売れる状態。そんなことでは(努力しなくても売れることに慣れれば)会社がやがて傾く。だからビールに再進出した。」と「意思決定」の理由を述べられています。サントリーの「価値観」は「やってみなはれ。やらなわからしまへんで。」
で、63年4月に再参入してから45年間赤字が続け、2008年になってようやく悲願の黒字化を達成しています。

この間の経営者である佐治さんは半被を着て業務店回りの先頭に立っての売り込み、その率先垂範は社内に緊張感をもたらして「人材の育成」と「企業の活性化」という優良企業の「強み」構築がなされたと言えます。
仕掛けなければならない苦労は何か、社長室から出て現場を駆け回ることが必要だからそれを行う、これがトップ・マネジメントの「決断」です。

松下幸之助さんをまた引き合いに出します。
松下さんは「人材の育成」と「社内の活性化」づくりの名人で、昭和40年週休2日制を日本で最初に採用して前向きな緊張を醸成しています。
そのときに「週に2日休むとそれだけコストが上がる。会社の成績が上がらなければ世の模範にはならない。週休2日になってさらに発展するよう努力願いたい。」と述べています。

「前向きな危機感、緊張感」の状況づくりは、今の「リスク」を創って「未来のリスク」を回避させるというトップ・マネジメントの「意思決定」です。

続けてトップ・マネジメントのもう一つの「仕事」の話に移ります。
それはやはり「人」についての話になります。「松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。」
と言われた松下さんが、「ひとつだけ指導者に必要な条件を挙げよと。」と問いかけられて、しばらく考えて答えたのが「それは、自分より優れた人を使えるということですな。そう、これだけで十分ですわ。」と言われたそうです。
これは、アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの「己より賢明なる人物を身辺に集める術を修めし者ここに眠る。」の墓碑銘と通じそうです。

経営者の「仕事」として、ここで申し上げたいのは「成すべきこと」を明らかにして『価値観』と「危機感」のもとに「人の才能を見分けて」そして
「育て」「その人の才能を最高に活性化させ」『効用』づくりのために活用するということです。一人で頑張っている経営者についてはどうか、そのあり方は同じで少し違うのは”人″というところを”自分″に変えてください。

★オーナーシップ(当事者意識)づくり★
「所変われば品変わる」ということわざがありますが、これと似たものとして「日本の常識は世界の非常識」というものがあります。
中国に進出した経営者からよく聞くのが「信頼して経営を任していたのに裏切られた。」という言葉です。ここで、中国の人の悪口を言うために、この話題を出しているのではないことをまず断っておきます。

中国人の持つ商感覚は、日本人の持つそれとはまったく異なります。
中国人は、事ビジネスつまり金銭に関しては非常にシビアで手抜きを一切せず、自己が不利にならないようにあらゆる手段を使います。
何故なら弱気で負けると、家族が路頭に迷うことになるということが皮膚感覚にすらなっているからなのでしょう。
交渉事は少しでも有利になるように、駆け引きを行います。
それはビジネス(商活動)なので有能な人間の当然の常識であって、駆け引きしないのは不真面目で非常識な信じられないことでしかありません。

中国の人が日本人に仕事を任せた時には、不審なことがあれば徹底的に納得するまでこと細かくチェックするでしょう。
日本で事業を行っている中国人経営者が、雇用関係がやり易いと言います。何故なら、チェックしていなくても働いてくれるし、報酬について特に要
求して来ることもないし「信頼」して仕事を任せられると言うのです。
グローバルな視点に立つと、日本という国は経営者にとって「非常識」なありがたい「信頼」し易い国ということになりそうです。

少し長く「所変われば品変わる」の話をしましたが、『知識』は「力」なので、本質的な『常識』として「変化」や「心の法則」
について知ることも、先駆けて「機会」を手に入れるための経営者の大切な「教養」の一つです。経営者としてムダな『常識』で後手を踏むことや「機会」を逃すようなことは、あたら「才能」をマイナスにするので惜しむべき愚行です。

日清食品の安藤百福さんは「チキンラーメン」を開発しました。
そしてそれに続くヒット商品として「カップ・ヌードル」も開発しました。
ここで少しうがった見方をするのですが、その時代では日清食品には安藤百福さんを超える「才能」はいなかったのでしょうか。
「才能」はいたのだと思いますが、ただ安藤百福さんを超える「問題意識」を持った人がいなかったというのが事実なのでしょう。また「他の才能」を活用しなかったというのも事実なのでしょう。

タマノイ酢のヒット商品「はちみつ黒酢ダイエット」は、社長である播野勤氏の発案で入社2年目の社員が中心になって開発しています。

この2つの事例で説明したいのは「マーケティング」を実現させるための条件としての「問題意識」についてです。
「問題意識」言いかえれば「オーナーシップ(当事者意識)」の存在なくして「ヒット商品」が開発されないということです。
日清食品とタマノイ酢を見ると「オーナーシップ(当事者意識)」の分与についてタマノイ酢が一歩進んでいる印象を受けます。

経営者の「仕事」とは何なのかを考えています。
「環境を整える」について考えています。
「オーナーシップ(当事者意識)」を全員が持てるようにできれば「ヒット商品」の数は大幅に倍加されると期待できます。

「オーナーシップ(当事者意識)」の心理を考察し、最も先駆けて「環境を整えた」のが「経営の神様」である松下幸之助さんです。
アメリカでは「GM」がすでに「事業部制」を行っていたのですが、これに学ぶことなく独創で実施しました。
事業部制の狙いについて「自主責任経営の徹底」と「経営者の育成」の2つであるとしています。

「事業部制」には、その発展形として「カンパニー制」があり、2017年のあのトヨタが「製品」を軸とする制度として導入に踏み切っています。
トヨタの製造現場での「オーナーシップ(当事者意識)」活動としては、早くから「ムダ」を極限まで排除するトヨタ生産方式があります。

松下幸之助さんを心の師とする稲盛和夫さんは「事業部制」の進化形として「時間当り採算制度」を経営内容を共通して把握できる指標とした「ア
メーバ経営」を創設しました。アメーバ経営とは「アメーバと呼ぶ小集団に分けます。リーダーは、中心となって計画を立て、メンバー全員が知恵を絞り、努力することで、アメーバの目標を達成していきます。」としています。
その効果として「現場の社員ひとりひとりが主役となり、自主的に経営に参加する『全員参加経営』が実現する。」つまり「「オーナーシップ(当
事者意識)」が確立できるとしています。

好業績をあげている企業でのこのような事例があげていけば結構あります。
日本だけでなく、世界の優良企業でも少し趣は異なるところもあるのですが、その根底に流れる考えについては相違はありません。
アメリカの「GE」はその代表例ですが、文化の違いを考えながらそのあり方を次回に紐解こうと考えています。
また、他の事例も含めてそれらを通して「従業員へのマーケティング」という「経営者」の「仕事」を考察したいと思います。