103回 経営資源としての「知識」

★「効用」と「知識」★

企業は「顧客の欲求を満たす」ための『効用』を創造して提供する機関です。
ただし、その役割を継続して行うについては『利益』を得て「再投資」して満足の『効用』を提供し続けなければなりません。
顧客に喜んでもらえる「今日」の『効用』の提供というのは当然として、それに加えて『利益』を獲得して「明日」の『効用』をも創造して提供しなければなりません。

ここで最も理想である基本を述べましたが、とにもかくにも最上を目指すのが「成果」を実現させえる経営者の知恵であり戦略です。少し堅苦しいのですが続けて話をすすめます。企業の目標は、継続して貢献できかつ存続する『優良企業』になることです。
そのような『優良企業』になるためには、2つの基本要件があります。
一つ目は外部に対しての要件で『顧客』にとって最も秀でた『効用』を提供し続けることで、もう一つは内部の要件「最小の経営資源で最大の成果」を実現させ続けることです。

この基本要件を超優良の利益率を誇る「キーエンス」では、企業理念としてそのままの形で掲げています。『最小の資本と人で最大の付加価値をあげる。』がそれです。
顧客が未だ気づいていない潜在している真の課題を把握して、解決のための『効用』を創造しアイデアを付加して売るとしています。

「最大の成果」「最小のコスト」この二つのことを同時に実現させることが『経営者の役割』で、そしてそのことを可能にするために『マネジメント』があるのだと言えます。
ただし『マネジメント』は知的に理解するだけでは何の『効用』もなく、知恵や勇気や決断力、見識といった全人格的な要件を以て実行して、試行錯誤して失敗を繰り返して忍耐強く続けてはじめて適えられるものです。

また、但し書きを加えますが、そんなことなど私ではとっても無理だとなりますが「しなければならない。」のであれば、怯えをなどは無用で必死に考え抜き必死に勇気をふり絞って実行するより手立てがないのが道理です。その点、稲盛さんや孫さんやさらに松下さんのように「病気」のなかにあって悟れるものがあった人たちの「覚悟」や「開き直り」の決断は際立ちます。『効用』づくりの話に戻します。
そのように言いますと「定義はよく分かった、そんなことより私の知りたいのはどうしたらよいのか。」ということだという話はなりますが。
「どうしたらよいのか。」簡単に結論から言いますと、それは一言で「『知識』を活用」することということになります。と言ってしまうと、また「『知識』がどやねん。」とお言葉をいただくと思いますので、ここから「『知識』がどやねん。」の話をすすめます。

ここで少し『知識』について定義を行います。ここで言う『知識』とは「「情報」を「仕事」や「成果」に結びつける「能力」」のことで、ドラッガーによる定義に従います。少し噛み砕くと「「経営者」「専門家」「知識労働者」が「成果」を実現させるために活用する「経験」「ノウハウ」・「テクニック」・「情報体系」等々」となります。

ところで、話がとびますが「東京ディズニーランド」が「オリエンタルランド」により経営されていることを知っている方は、どのくらいおられるのでしょうか。

その「オリエンタルランド」ですが「ウォルト・ディズニー・プロダクションズ」とライセンス契約を結び、そのノウハウを活用して「東京ディズニーランド」を運営しています。
「清掃のスタイル」一つしても「マニュアル」をもとにしてショーアップしてパフォーマンスにしています。
ライセンス契約を結ぶについては、毎年多額の対価が支払われています。「成果」を実現させるための『知識』に対価を支払います。
『知識』には対価を支払わせる「価値」があるのですが、その『知識』はウォルト・ディズニーという一人の人間の「思い」「イマジネーション」そして「実行」が結実して形作られたものです。

一頃「コンピュータ、ソフトがなければただの箱」というフレーズが口の端にのぼりはやりました。ソフトウェアという『知識』が付加されて、はじめて機能することを言っているのです。日本は「奈良時代」の昔からそうなのですが、外部からの『知識』の導入に
貪欲で「明治」の開花期においても「第二次大戦後」の復興期においても同じパターンをもってして、国力を高めてきました。
それは地勢的に形成された民族性の恩恵を受けいるのか、独自な「吸収力」「カイゼン力」を駆使して本家を上回る「高品質」で「安価」な『効能』に仕上げて行ってしまいます。

『知識』についての話に移ります。
この『知識』ですが、獲得するのにはご存知のように2つの方法があります。模倣(学ぶ)する方法と、創造(カイゼンも含め)する方法です。

いつものようにまた余談を挿みますが、通説ですが基礎知識は別として自前で『知識』づくりが出来ない企業には脆さがあります。
「東芝」は「GE」から白熱電球の製造法を学び成長した電機メーカーで、「日産」は創業期より先進技術の吸収に積極的だった自動車メーカーです。これに対して「ホンダ」「トヨタ」「ソニー」「パナソニック」は、自前の『知識』づくりに「コダワリ」を持っている企業です。

ある一定以上の「競合」状況に入ると『強み』を形成する『知識』については、他に頼って得ることなどできなくなります。
そこでは確かな『価値観』を共有して『知識』をつくれる人たちのみが、道を切り開いて行くこととなります。

★「知識」の生まれ方★
確かな『価値観』を共有して自前の『知識』づくりをする企業群について、    その様を概観しその本質の一部なりとも考察できればと思います。

『知識』づくりする企業に共通する特色は「秀でること」「自己実現すること」「マネをしないこと」などに『価値感』を置き、そが「企業文化」となり創始者の「コダワリ」を受け継いで経営が行われます。
もし、この「企業文化」を遮る後継者が出たならば「シャープ」のように、緩急は別として活力を失って行きます。
「東芝」などは一時土光さんにより「喝」を入れたものの、その官僚制的体質の根が深かったようで現在の状況を呈しているのでしょう。
「ニッサン」は危機感で思いが一つになった時に、カルロス・ゴーンという強烈な異質な「個性」が注入されてはじめて変革が起こされました。

◎ホンダの『価値観』

“人間尊重”
自立:自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性を持って行動し、その結果について責任を持つこと。
平等:個人の違いを認め尊重し、意欲のある人には個人属性にかかわりなく、等しく機会が与えられること。信頼:お互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠意を尽くして自らの役割を果たすこと。そして働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考える。

“三つの喜び”
買う喜び:商品やサービスを通じて、お客様の満足にとどまらない、共感や感動を覚えていただくこと。
売る喜び:価値のある商品と心のこもった応対・サービスで得られたお客様との信頼関係により、販売やサービスに携わる人が、誇りと喜びを持つこと。創る喜び:お客様や販売店様に喜んでいただくために、その期待を上回る価値の高い商品やサービスをつくり出すこと。

<考察>
ホンダは、本田宗一郎と藤沢武夫という夢を語れる経営者を持ったことで、利益偏重でない「企業文化」が形成されました。
本田さんと藤沢さんが最初に出会った時に、藤沢さんが「別れるときに損はしないよ。金ではない。何か得るものを持って別れるよ。だから、得るものを与えてほしいとも思うし、また得るものを自分でつくりたいと思う。」と言うと、これに対して本田さんは「うん、結構だね。」と答えたそうです。
◎トヨタの『価値観』

「どこで作っても同じ品質」:「Made by TOYOTA」グローバルでの品質確保を目指して。
「品質の確保」「トヨタウェイの浸透」を実現するため「モノづくりは人づくり」という考えのもと、人材育成に取り組む。
“トヨタウェイの2つの柱”知恵と改善:常に現状に満足することなく、より高い付加価値を求めて知恵を絞り続けること。
人間性尊重:あらゆるステークホルダーを尊重し、従業員の成長を会社の成果に結びつけること。
“トヨタ生産方式”
自働化:異常が発生したら機械がただちに停止して、不良品を造らない。
ジャスト・イン・タイム:各工程が必要なものだけを、流れるように停滞なく生産する。

<考察>
トヨタは発明王豊田佐吉と豊田喜一郎の「3年でアメリカに追いつく。」の「自助のモノづくり精神」が脈打っています。
豊田喜一郎は「何と云っても苦心してそこまでもって行った者には尚それをよりよく進歩させる力があります。」と言われています。
そして「技術は実際技術と学術的研究が密接にかかわりあって進歩していく。『試作品をつくるときは、まず現場のものを呼んでつくらせ、その調子がよいと、それから学校出に理論づけをさせられた』」と証言しています。
◎ソニーの『価値観』

1946年(昭和21年)1月設立趣意書
「技術者がその技能を最大限に発揮することのできる“自由闊達にして愉快なる理想工場”を建設し、技術を通じて日本の文化に貢献すること」「人の
やらないことをやる。」
現在の理念:「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(含有)」
子会社を通じて行う事業は、銀行業・生命保険業・損害保険業・不動産業・放送業・出版業・アニメーション制作事業・芸能マネージメント事業・介護事業・教育事業・電気通信事業です。

<考察>
出井伸之さんは、1990年代後半から累積7万人以上の大規模な人員削減を行い、「ファイナンス」にも進出し利益額最大となる柱をつくりました。
多くの社員を魅了した“自由闊達にして愉快なる理想工場”から「ファイナンス」で儲けるアメリカの「GE」を踏襲する模倣企業に変身しました。
ステーブ・ジョブズが憧れ手本とした企業は「ソニー」で、出井さんが手本とした企業がジャック・ウェルチの「GE」です。
今「GE」は「ファイナンス」を切り離し「IoT」に集中し始めています。
こんな中で『知識』づくりのDNAを残す「ソニー」がどのように『価値観』を変革して行くのかを注目しています。

『効用』は『知識』を活用して創造されます。
顧客の望む『効用』づくりのために『知識』を創造できる活力を持った企業のみが、時代の変化のなかでその頭角を現して行きます。
付け加えて『知識』を創造できる活力を持つ企業のバックボーンは、それは『価値観』です。