「未だかってない最高によいもの」づくり   

スティーブ・ジョブズ考
スティーブ・ジョブズが、2005年6月、スタンフォード大学の卒業式に 招かれた時に行ったスピーチ「Stay hungry. Stay foolish.(ハングリーであれ。愚か者であれ」は、成功者ジョブズの経営スタイルおよび考え方の根 っこを探り当てるための好材料を提供していると言えます。
と同時に、今の時代の一つの成功パターンの示唆をも与えます。

前回では、市場が求める商品を「べっぴん(別品)」という言葉であらわし ましたが、ところでこの「べっぴん(別品)」には2つの種類があって。
それは改良・改善によってつくられる「より良くなったもの」と、飛躍(革 新)によって生み出される「未だかってない良いもの」といったもので異な る考え方、手法によってつくり出される別物の「別品」といえます。

スティーブ・ジョブズの「ハングリーであれ。愚か者であれ」に話を戻しま すが、一般の見方では「ゴロツキの役立たず」ということにもなるのですが、 一たび「ミッション」のために「市場とかかわり」「執念を持てば」この人 こそが「未だかってない良いもの」を生み出す最適の人材に変身します。
とうぜんとして、満ち足りた賢い人からは異質なよいものなど生まれません。

「未だかってないもの」「類まれな商品」は「ハングリーである愚か者」が 飢えを満たすために、彼方にある未知なるものを目指して恐れることなくチ ャレンジし続ける活力なくして生まれません。
「より良い商品」はいつの時代でも求められますが、グローバルで成熟した 市場になれば「未だかってない良いもの」を求める欲求は強くなります。

「より良い商品」であるのであれば「和を以て貴(尊)しとなす」の「トヨ タのカイゼン」のような日本的経営が強みを持ちますが「世にない驚きの商 品」をつくるについては、ジョブズのあり方が必要とされます。
少し舌足らずの物言いになるのですが、これから最も社会(市場)に強みを 発揮するのは「異質」を取り込み活かせる人たちだと言えます。

ついては、ジョブズが何故「世にない驚きの商品」をつくることになったの かまたできたのかを見て行きたいと思います。
ジョブズには先駆者がおり、それは「発明王」と言われた「エジソン」でそ の創造パターン、考え方、行動には似通ったところが多々あって、生い立ち が一般的エリートでないところもまったく同じと言えます。

ジョブズは養父母に育てられたのですが、未婚であった実母の大学に進学さ せるという条件で引き取られたという生い立ちを持っています。
そのことを知ってのことか、大学に入学したものの両親が一生をかけて貯め た学費を意味のない教育に使うのに不信を抱いたことと興味のない必修科目 を履修することを嫌がって半年間で中退しました。

ただその後、面白いのは「もぐりの学生」となって空き瓶拾いや電子装置修 理で日銭を稼ぎながら興味のあるクラスだけは聴講し続けたことです。
ジョブズの行動特性の基盤は2つのことに集約されそうです。
その一つは興味のあることのみを追い求め、その興味のあることについては 一般的常識にとらわれず並外れた実行力で突き進んで行くことです。

そしてもう一つの行動特性は、これこそ偉大な成果を実現させたことになっ た特質要因ですが、他人の中に知識・才能を見い出し自身の価値観でもって 引付け手段を選ばず究極まで活用尽そうとすることです。
若い一時期には、ひたすら「自分探し」を行い導師を求めてインドまで旅し てそのあまりにもかけ離れた実態に失望をしたという経験も持っています。

回りくどい略歴説明になっていますが、この「自分探し」に見られ本質を追 い求める性向が「未だかってない良いもの」をつくらせたと言えます。
コンピュータに進んだのは「やってる人がほとんどいない領域だったからだ」 と言い「私は、本当に好きな物事しか続けられないと確信している。」とも 言っており、ジョブズのモノづくりの創造行動はこれなのです。

ドラッカーは「考えるべきは、ミッションは何かである。」「ミッションが 定まれば取るべき行動は明らかである。」と言っています。
ジョブズの価値観(ミッション)は「未だかってない良い商品をつくる。」 ことで、その役割は「イメージした商品をデザイン」し「才能を集め」「最 高の成果をめざして」「知識・知恵を出させ尽くさせる」ことです。「偉大な製品は、情熱的な人々からしか生まれない。」と言い、スタッフが
「それは不可能です。」と言おうものなら「君ができないって言うんなら、 誰か別の人を探さなくちゃ。」で、その場で即クビということもあり、「現 実歪曲」と称される「空間」のなかで、他社でははみ出てはじかれた才能あ る難民(専門家)をもって「究極のものづくり」を実現させて行きました。

「現実歪曲空間」とは、ジョブズから醸し出されて関係者を飲み込んでしま う「不可能なことが容易いこと」だと思わせられる空間で、多くの失敗を繰 り返しながらも妥協なき究極の機能、外観ともに「美的」である「未だかっ てない製品」が完成されて行くことになります。
ジョブズは、演奏者でなくオーケストラの名指揮者にも擬せられます。
2 鼠を捕る良い猫
「べっぴん」づくりには、どんな人材が求められるのでしょうか。
いきなり結論を言いますと、その少し昔中国「改革開放」で疲弊した中華人 民共和国の再建を実践した?小平さんの言った「白猫であれ黒猫であれ、鼠 を捕るのが良い猫である」がその回答で、成果としての「別品」を捕らえる 猫であれば「白・黒」であることにはまったく関係を持ちません。

中国を現在のようなGDP(国内総生産)世界第2位に押し上げたのは、?
小平が推し進めた「改革開放」政策、つまり社会主義経済の中で「鼠を捕る のが良い猫」として「市場経済」を導入したことによります。
ここでいきなり突拍子もなくこの話を述べたのは「良い猫(時代が求める人 材)」について述べたいがためで。

また朝ドラの『べっぴんさん』を引き合いに出しますが、本筋の出来事では ないのですが2人の新入社員の比喩が興味を引きます。
極端に個性が異なる「白」と「黒」で、片や誰もが優秀と評価する人物像で もう片方は自社の文化(価値観)においてなら何か期待が持てそうな真摯で 純朴そうな人物像で描かれています。

少し前の回で、二人に何か意見はという場面なのですが、優等生は社内に私 語が多いのではという耳の痛い率直な意見を述べています。
純朴な方は、百貨店に来店された客が特に中年男性の客が、お祝いの品選び に四苦八苦しているので「贈答用セット」にしてはと提言するのです。
この提言は、女性特有の身軽さでいきなりマーケティング商品になりました。

マーケティングの原則は顧客からスタートすることで、純朴な新入社員の現 場観察による提言は顧客の「お困りごと」に応えるものです。
もう一人の優等生の提言は、組織の強みや文化とかけ離れてします教科書通 りのことで、女性メンバーの「おしゃべり」がクリエイティブにつながる組 織にあってはカイゼンとはならずむしろ活力を削いでしまいます。

顧客に大きく貢献できるのは、何なのか。 「贈答用セット」という顧客に喜ばれるアイディアは、貢献を通して企業に 収益をもたらす発見で、これは成果を生み出させる大きな源泉です。
外部に貢献できるミッション(使命)行動にかかわる知識や情熱が、顧客に 貢献できる源泉でありここに生産性が加わるとき利益へと結びつきます。

「べっぴん」づくりに適した人材に戻りますが、一番根っこにあるのは自社 のミッション(使命)に貢献してもらえる人材であるかどうかで、その決定 基準はこの一点に集約されてしまいます。
企業という組織の基本目的は、ただ一つで外部に貢献できるかどうかにかか っており内部の利害関係者への貢献はそれを可能にするための要件です。

ここまで言ってしますと「よー、分からんな。」になってしまうでしょうが、 ここから、スティーブ・ジョブズの成功と「ミッション、人材、知恵、知識、 マネジメント」の絡みを紐解いて「そうなんかなー。」になっていただけれ ば幸いなのですが、これは一般通念とは異なるマネジメント通念です。
最も不可解なのはミッション(価値活動)だと思いますが、続けます。ジョブズの成功方式を吟味して見ようと思います。
ジョブズの生い立ちと成功過程をより深く見てみると、一般的な道徳観とは かけ離れていて、仲間や上司をだますは、他社から引き抜いてきた人材を追 い出そうとするは、アイディアは盗むはでまったくハチャメチャです。

ただ、死生観をはじめとする貢献を創る出す源泉の価値観を持っています。

ジョブズの最初の就職活動は型破りで、IT企業を訪問し「雇ってくれるま で帰らない」と宣言してトップを引っ張り出し気に入られたことで社員とし て採用され下級エンジニアではあったのですが働くこととなったのです。
その時期のジョブは長髪で風呂に入らず不潔な姿に加え、誰彼となく尊大な 態度で接したため、同僚の大半から「失礼な奴」と認識されていました。

ここに長々と人物像を紹介したのは、革新者とは大きな机にどっかと座って いる大企業の経営者ではないということを言いたいからです。
スティーブ・ジョブズのその強みの源泉は、彼の持っている価値観で「もし 今日が自分の人生最後の日だとしたら、」「我々は宇宙に衝撃を与えるため にここにいる。」「情熱さえあれば上手くいったも同然だ。」などです。

ますます「こんがらがって」きているかもしれないので、結論に入ります。
前提になる形容詞が二つあり「未だかってない」「最高」がそれで。 私(私たち)に対価を支払ってくれるもしくはくれそうな顧客に「未だかっ
てない、最高によい商品(サービス)」をつくり上げるのに貢献してくれる 人あれば、頭が白かろうが黒かろうが関係ありません。

ジョブズのように風呂に入らず尊大であっても「未だかってない、最高によ い商品(サービス)」をイメージしデザインでき人材を見極め集めこき使い 成果をもたれさせれば、そして「はみ出し者」であってもクリエーティブに 生きがいを感じてこき使われることにも耐えうる人材(専門家)であれば。
知識、技能は身につけられるので、必要要件の核はその人の「価値観」です。

蛇足で述べるのですが、経営学者ドラッガーなのですが「今日、知識だけが 意味ある資源である。」「労働、資本は、知識さえあれば入手可能である。」
と言い、今日の経営のあり様の変転を指摘しています。 専門家は「知識」を有しており、その知識をあらゆる方法、手段を駆使して 引き出すのがマネジメントで、その中核を成すのが価値観だと言えます。